不動産大手とベンチャーキャピタルが組んでスタートアップ向けオフィス開設
ベンチャーキャピタル(※注)が不動産大手と組み、
スタートアップ向けのオフィスを開設する動きが相次いでいます。
新型コロナウイルス下でリモートワークが広がる中、
創業初期の事業立ち上げには対面の交流が効率的・効果的と
みているとのこと。
創立10周年を迎える独立系ベンチャーキャピタルANRI
(東京都渋谷区:代表パートナー 佐俣アンリ、以下 ANRI)は、
東京・六本木の六本木ヒルズ森タワーに拠点を開設。
投資額は数億円の見通しで、
東京都渋谷区と文京区の計2カ所で運営している拠点から
機能を移し、2023年1月をめどに起業支援の受け入れ拠点を開く予定で、
投資先スタートアップなど30~40社が入居予定とのことです。
新拠点の床面積は従来の約1.7倍となる1200平方メートルで、
仕切りは設けず、入居企業がそれぞれの「島」をつくる形式を採用。
ANRIの本社も同じ拠点内に移し、常駐するキャピタリスト(投資担当者)と
気軽に交流できるようにするとのこと。
創業初期はメンバーの役割も明確でないため、実際のオフィスで
コミュニケーションを取る必要があるため、
「創業直後のスタートアップは物理的に一緒に働いた方が効率的」
であると考えています。
ANRIの投資先であり、美容クリニック向けSaaS『medicalforce』を
展開する株式会社メディカルフォースは新拠点への入居を検討。
創業時からANRIの渋谷区の拠点に入り、事業を立ち上げた際に
「キャピタリストが近くにいて頼りやすかった」とのこと。
森ビルは、
「複数の有望なスタートアップに投資するVCと連携する重要性は高まっている」
という考えから、2016年に初VCのインキュベイトファンド株式会社などと
共同運営する拠点を開きました。
コロナ下ではオフィス縮小の動きが広がりました。
2022年6月の東京都心5区(千代田、中央、港、新宿、渋谷)の空室率は
6.39%で、供給過剰の目安となる5%を17カ月連続で上回っており、
入居企業の確保がオーナーにとって喫緊の課題となる中、成長に伴って
広いオフィスを求めるスタートアップは有力候補となります。
スタートアップ、ベンチャーに特化し適切なオフィスの提案・仲介を行っている
株式会社IPPOでは、2022年1~6月の成約案件のうち、職場を拡張するための転居が
約9割を占めたとのこと。
これらの背景にはリモートワークの難しさもあり、
新興・中小企業の経営者を対象とするアンケート調査では、コロナ禍を経て
「リアルなコミュニケーションの重要性を実感した」
との回答は7割を超え、6割超が「コミュニケーション不足」に不満を持つ
という結果が出ています。
こうした需要を捉えようと、独自色のある場所づくりが進んでいます。
VCのXTechベンチャーズは東京建物と組んで、
2022年4月に東京・八重洲に起業支援施設を開きました。
2022年10月までは賃料が無料で、キャピタリストに事業計画や資金調達の相談もでき、
JR東京駅と近いため、出張などに合わせて立ち寄る大企業関係者も多いようです。
投資先だけでなく、事業創出支援プログラムに採択した段階のスタートアップも
半年間限定で受け入れる点が特徴で、
「日常的な交流を通じて将来の出資を検討する」としています。
クラウド経由でソフトを提供するSaaS(サース)型企業に投資する
DNXベンチャーズも、2020年から、日鉄興和不動産とJR品川駅近くで
施設を運営しています。
共有スペースには入居企業の社員のプロフィルが分かるQRコードを掲示。
これをきっかけに協業が生まれ、課題を一緒に解決する事例も出てきている
とのこと。
現在の入居は創業直後の「シード」期の企業が約7割、
製品やサービスを開発途中の「シリーズA」期が約3割で、
成長段階に合わせた人事制度や財務戦略を助言する説明会も検討しています。
米国決済大手ペイパル・ホールディングスもVCの創業支援施設でサービスを
磨いてきました。
日本でもこうした有力企業が誕生すればエリアの活性化につながり、
他のスタートアップを呼び込む集積地に発展する可能性を秘めているのでは
ないでしょうか?
※注:ベンチャーキャピタル(Venture Capital、VC)とは
未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資して株式を取得し、
将来的にその企業が株式を公開(上場)した際に株式を売却、
大きな値上がり益の獲得を目指す投資会社や投資ファンドを指します。
一般的なベンチャーキャピタルは、企業への出資と同時に経営コンサルティングを
行い、その企業価値の向上を図ります。