人口800人の限界集落・新潟県山古志地域が「デジタル村民」を集め目指す新世界の本質
過疎が進む新潟県長岡市の旧山古志村で
「デジタル村民」が急増しているそうです。
彼らは実際の住民ではなく、仮想空間上で「住民票」をもつ人々で、
その人口は既に実際の住民を上回る規模に達しています。
地域の課題解決に向け、日々アイデアを出し合う「デジタル村民」たち。
高齢化が進む小さな山あいで、デジタル技術を駆使した
新たな地方創生が始まっています。
山古志のデジタル村民チャットサイトの専用コミュニティーには、
毎日のように書き込みが投稿され、なかには英語や中国語での
書き込みもあり、外国人の「村民」も少なくないそうです。
その数は、半年で900人を突破。
実際に住む人口の813人を上回りました。
彼らの共通点は、山古志の電子住民票を持っていること。
住民票と言っても実際に役場で取得する公のものではなく、
仮想空間で独自に発行しているもので、複製や偽造が不可能な
非代替性トークン(NFT)のデジタルアートを購入することで
取得可能となります。
▼参考記事:NFT(エヌエフティー)とは?
完全初心者にもわかりやすく徹底解説!
https://minkabu.co.jp/choice/cc-what-is-nft/
デジタル村民を住民の一員とみなし、彼らのアイデアや資金を使って
リアルな山古志地域の課題解決につなげる、というのが、
2021年12月から始まった「仮想山古志プロジェクト」。
デジタル村民を「いわば世界中にいる山古志応援団」と位置づけ、
彼らに一定の予算や権限を与え継続的に関わってもらう点が、
クラウドファンディングなどの仕組みとは異なっています。
地域活性化事業を手掛けるアドバイザーらとともに仕組みを構築。
総務省の「過疎地域持続的発展支援交付金」を取得したほか、
長岡市が公式パートナーとして支えています。
磯田達伸・長岡市長も
「デジタルトランスフォーメーション(DX)による地域作りの可能性を
予感させるもの」と期待を寄せています。
2021年12月に発行した第1弾のNFTアートは、山古志発祥のニシキゴイ
(錦鯉)が描かれている
山古志発祥のニシキゴイを描いたデジタルアートの価格は、
暗号資産(仮想通貨)のイーサリアム(ETH)で1点0.03ETH
(昨年12月の発売時点で約1万5000円)。
NFTを使った珍しい取り組みに興味を持つ人は多く
「過疎地域の創生に携わりたい」
「山古志を第二のふるさとにしたい」
と、デジタルアートを購入する人は後を絶たないそうです。
2月には、デジタル村民から募った事業プランの中から実際の活動を選ぶ
「山古志デジタル村民総選挙」を開催。
リアルとデジタルの住民をつなぐ場の形成や、
写真で山古志の魅力を発信する取り組みなど、
4つのプランが投票で選ばれ、デジタルアートの売り上げの一部を財源に、
現在プランを実行中です。
▼参考記事:800人の限界集落が「デジタル村民」集め目指す世界
(東洋経済オンライン)
https://toyokeizai.net/articles/-/592379
※上記の参考記事は、デジタルアーキテクト、ベンチャーキャピタリスト、
起業家として活動する伊藤穰一氏が、デジタル村民総選挙、
NFTでの財源確保など、世界で「初」となるさまざまな取り組みは
「新しい民主主義」につながるのか。
NFTによってもたらされる、
まったく新しいこれからの民主主義とはなにか?などの観点から、
驚きの未来予想図を語るという内容で、非常に読み応えがあります。
仮想空間と過疎集落という、一見正反対に思える両者を結びつけたのは、
集落存亡への危機感でした。
山古志は2004年の中越地震で甚大な被害を受けました。
復興を進める一方で、人口減少は止まらず、震災前に比べ人口は
半分以下に減少。
高齢化比率も55%を超え、山古志住民会議が中心となり
様々な取り組みをしてきましたが、状況は大きく変化せず、
「最後の挑戦」と始めたのが、今回のプロジェクトだったそうです。
このプロジェクトは、人口が減少する日本でパイの奪い合いをしても
意味がなく、定住人口にとらわれず、人口を「シェア」することが
必要であるというのが根底にあり、行政の枠組みを超えたDAO
(分散型自律組織)と呼ばれる新たな自治の形で、ブロックチェーン
(分散型台帳)や仮想通貨を活用しながら、独自のコミュニティーを
形成し、管理・運営していくもの。
6月10日には岩手県紫波町もDAOの設立を発表するなど、
新たな地域創生の手段としても注目されています。
5月に開催された山古志直売所まつりにはデジタル村民も駆けつけ、
地元住民と交流しましたが、 山古志の高齢住民にも分かるよう、
紙ベースでの活動報告も欠かさず行っており、 新型コロナウイルス禍が
落ち着いたら山古志を訪れたいという海外のデジタル村民もいるそうで、
目には見えないが、山古志を支えようとしている仲間がたくさんいる
ことを地域の高齢者に伝えています。
今後の重要な課題は、仮想空間での盛り上がりに終始せず、
確実にリアルの課題解決につなげていくこと。
継続的な取り組みが求められ、地域住民の理解や参加が必要なケースも
増えてくると思われますが、このようなプロジェクトの成否は、
他の過疎地域にとってもロールモデルとなる可能性を秘めています。