「建物OS」と「都市OS」で変わる社会。
大手ゼネコンの清水建設では、
ビルを丸ごとバージョンアップする基本ソフト
「建物OS」の導入を進めています。
これは、スマートフォンが「アンドロイド」
などのOSで様々なアプリを動かせるように、
空調や案内ロボットといったビル内のネット接続機器を
簡単に連動させられるもので、
国内の都市に1万棟以上ある既存オフィスビルの価値向上を
新たな事業の柱にするための取り組みです。
東京都江東区で清水建設が開発している大型複合施設
「ミチノテラス豊洲」では、 「DXコア」と名付けた
建物向けOSのショールームとしての役割も担っています。
オフィス棟で動き回っているのは案内ロボット。
訪問先を入力するとエレベーターを今いるフロアまで呼び、
自ら先に乗り込んで行き先のフロアまで連れて行ってくれます。
搬送や掃除など複数機種のロボットを何台も一度に
動かすことができます。
ロボットと、エレベーターや自動ドアを連係させているのが
「DXコア」の技術。
ビルの各所にあるネットにつながるIoT機器をデータ連係
させ、人が個別操作をしなくてもサービスが機能します。
施設内各所に設置された人工知能(AI)カメラも、
様々なIoT機器と連動。
例えば新型コロナウイルス対策として、入居企業の社員が
出社してきた際、カメラで人物を特定し、体温をチェック。
発熱していたらゲートを開けず、当該社員の上司に通知、
さらに空調の出力を上げて、一帯を換気します。
コロナ禍でテレワークが浸透し、
入居者離れに悩むオーナーが多い中、 清水建設は
「ゼネコンはビルを建てるのが仕事だが、
既存物件の価値を引き上げることにも商機を見い出す」
というスタンスでこの取り組みをしています。
スマホは買った後にアプリを追加することで、
利便性が絶えず向上しますが、 DXコアも
「建物をデジタル化し、アプリの追加でアップデートする」
ことを目指しているそう。
開発にあたっては、関連業界の約50社と組み、
外部とデータ連係する機能である「API」を構築。
各社の機器をDXコアで一括制御できるようにしました。
各機能は管理画面上でスマホアプリのようにアイコンで表示され、
マウス操作でアイコン同士をつなぐだけでデータ連係。
プログラミングで個々の機器を結びつける手間を不要にしました。
DXコアの導入費用は、
ミチノテラスに導入したフルスペック版で約8000万円。
既存の中小規模の建物での導入も狙い、
1施設当たり200万円から機能を選べる簡易版も用意されています。
清水建設の本社にも7月に導入し、
社員の位置情報と空調・照明の連動などに生かしています。
同社は2020年策定の中期デジタル戦略で
「デジタルゼネコン」への変革を掲げました。
他社との最大の差別化が、DXコアを中核とした
「デジタルな空間・サービスの提供」で、
10月には社内体制も刷新。
DX推進部を新設し、富士通出身の人材を部長に登用しました。
ミチノテラスは江東区などと豊洲1~6丁目で進める
「豊洲スマートシティ」構想の拠点でもあり、
DXコアは工場や学校などでも活用できるため、
将来的には街区全体を管理できる「都市OS」と連動させ、
スマートシティーの基盤とする考えです。
昨今、各都市でスマートシティ化が具体的に進むにつれ、
「都市OS」について議論がなされるようになりました。
政府が発表しているスーパーシティ構想の中でも
「AIやビッグデータを活用し、
社会のあり方そのものを変えていく都市」
と提唱していますが、柔軟性、効率性、
そして経済性を満たすスマートシティを実現するには、
様々な技術とデータの活用が欠かせません。
国内では富山市、川崎市、加古川市、高松市、福岡市、
沖縄県など、いくつかの地域で都市OSの実証実験が
行われている段階ですが、
海外ではすでに実装が進んでいる地域もあります。
今後、どのように進展していくのか目が離せませんね。